エターナル・フロンティア~前編~
といって、自分が非人道的な行動ができるかといったら、間髪入れずに「無理」と答える。
クリスはソラという人物と接する機会が多かったので、自分達が研究対象にしている者達に感情が移っていた。しかし、よくよく考えればクリスの考え方は偽善者そのもの。立場が違えども、クリスとユアンと一緒。本当に彼の行動を批判するのなら、現在の職を辞しなければいけない。
といって、そのようなことで現在の職を辞することができない。正直、この場所の給料はかなり良く辞職すれば現在の生活水準を落とさないといけなくなってしまう。人間、一度味わったものを手放すには相当の勇気が必要であり、残念ならがクリスはそれができずにいた。
ソラの心情を思えば、現在の職業を辞職した方がいい。その反面、金に困ってしまうので辞職できない。両方の考え方に押し潰されそうになるクリスだが、これはこれで人間らしい考え方。
それを考えると、タツキは実に清々しい。それなりの地位にいたのに、彼女は全てを捨て辞職したのだから。
(真似はできないな)
タツキもそうであるが、形は違えどもユアンも己の信念に正直に生きている。クリス自身も同じように信念を持って突き進めばいいのだが、残念ながら彼は明確な信念を持っていない。
(情けない)
どっちつかずの状態で働いている自分自身に、情けなくなってしまう。その情けない自分を慰めて貰いたかったのか、クリスは携帯電話を取り出すと話し易い人物タツキに電話する。
しかしこの場合、電話をした相手を完全に間違えていた。一通りの心情を吐露した後、彼女から返って来た言葉というのは「馬鹿」という心を鋭い刃で抉るような辛辣な言葉だった。
「それはないだろう」
『馬鹿なものは馬鹿よ』
「何でだ?」
『本音を言えば、辞職は後悔しているわ。ソラ君には、後悔していないと言ったけれども……』
「初耳だ」
あのまま辞めずにいれば、今以上にソラの手助けができたのではないかと――後悔しているという。自分が行っていることに嫌気が差し、彼等が発する悲鳴を聞きたくないから辞めた。それは一時的な感情で下した結果であって、冷静になれば「後悔」しか残らなかった。