エターナル・フロンティア~前編~

「……楽しみだ」

 内に秘められた欲望により、顔が歪んでいく。

 それが、彼の本心。

 しかし、誰もその意味を知らない。


◇◆◇◆◇◆


 友人に電話を行なった後、ソラはバイクを走らせタツキの自宅に向かっていた。タツキの家は街外れの小高い丘の上に存在し、研究室を辞めた後、今までの研究の成果を生かし小さな診療所を開いている。訪れる患者の数はまずますというところで、それなりに評判もいいと聞く。

 暫く丘を登っていると、時代を感じさせる白い家がソラの視界に映り込む。タツキの自宅の周囲には珍しい植物が植えられ、朝露を浴び陽光を反射させていた。しかしこの植物達はタツキが世話を行っているわけではなく、実は時折ソラが面倒を見ている植物であった。

 開かれた窓から、賑やかな声が漏れ出ている。どうやら複数の患者がいるらしく、中には子供の声も混じっていた。その声にタツキの在宅していることを確認すると、ソラはバイクを止めハンドルにヘルメットをぶら下げる。そして玄関まで行きドアを開こうとした瞬間、子供が飛び出してきた。

「こら! 逃げるな」

「注射なんて、嫌いだ!」

「風邪が悪化しても、知らないわよ」

「悪化しても、注射は嫌だ!」

「もう、言うことを聞きなさい」

 注射器を片手に、二十代後半の獣の耳と尻尾を持つ女――タツキが姿を現す。今まで子供相手に取っ組み合いをしていたのか、長く美しい小麦色の髪と白衣はボロボロだった。それにモスグリーンの双眸は血走っており、いつものタツキとは別人といっていい風貌だった。

「タ、タツキ。元気そうだね」

「あら、ソラ君。本当に、いいところに来てくれたわ。一緒に、あのガキを捕まえて頂戴。お礼をするから」

「何か、悪いことをしたとか?」

「違うわよ。あの子は、風邪をひいているの。それなのに、注射から逃げるのよ。もう、風邪を甘く見たら大変なことになるというのに。この注射をうてば、すぐに治るって説明したのに聞かないのよ。痛いのは一瞬だけだっていうのに、どうして注射から逃げるのかしら」
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