エターナル・フロンティア~前編~
「そんな顔で追いかけたら、怖がるって」
「そ、そうよね。さあ、いい子だから注射をしましょうね」
タツキはぎこちない笑みを浮かべ、両手を広げゆっくりと子供に近付いていった。だが不穏な気配を感じ取ったのか、子供は捕まえる寸前で逃げ出す。その瞬間、タツキの表情が変わった。
全力疾走で逃げる子供の後を、やはり全力疾走で追い掛けるタツキ。ここまで来ると、違う光景に見えてしまう。そう、子供を追いかける鬼婆。流石にタツキには言えないが、そうしか思えない。刹那、遠くから悲鳴がこだまする。どうやら、タツキに捕まってしまったようだ。
ソラは心の中で手を合わせると、建物の中でタツキが戻って来るのを待つ。そして建物の中に足を踏み入れるとタツキのペットであるマロンが尻尾を振り、足に擦り寄ってきた。ソラはマロンを胸元に抱きかかえると頭を撫でてやると、撫でられ嬉しいのか甘えた声で鳴き手の甲に擦り寄ってきた。
マロンは黒と白の毛並みの小型犬だが、生き物ではなくロボットだった。人工毛や人工皮膚を使い体温変化・感情もプログラミングされ、外見はまるで本物に近い作り。餌を与えなくて良いところから、一人暮らしや老人の間で人気がある。何より、とても可愛らしい。
「マロン、お前の主人は凄いな?」
そう尋ねると、マロンは首を縦に振って見せ「その通りです」と、言っているように思えた。そんな可愛らしい態度にソラは喉を撫でつつ、タツキの帰りを待つ。数分後、タツキが戻って来る。かなりの激戦だったのか、肩で息をし着ていた白衣の裾は泥で汚れていた。
「お、お帰り」
「おいたばかりするから、尻に注射してきたわ」
「そ、そうなんだ」
「逆らった罰よ」
タツキのことだから、言っていることは本気だろう。今頃、あの子供は尻が痛いに違いない。可哀相と思ってしまうが、タツキから逃げるのが悪い。逃げたら追い掛ける。それが、タツキの本能なのだから。
「で、今日はどんな用かしら?」
「相談したいことがあって」
「相談? いいわよ。じゃあ、二階で待っていて」
その時、ケツに注射をされた子供の声が響く。その台詞にタツキの動きが止まり、ソラの額からは汗が流れ落ちた。クソババア――タツキにとって、禁句とも言えるその言葉。次の瞬間、全身から怒りのオーラを放ち物凄い形相で外を睨み付け、失言を行なった子供に圧力を掛ける。