ロスト・クロニクル~前編~

「まあ、そういうことだよ。という訳で、君達は残念でした。まだ決まっていないというのなら、俺と一緒にやらない?」

「結構です」

「間に合っています」

「失礼します」

 エイル以外眼中にないらしく、キッパリと誘いを断る。

 そんな厳しい態度に二人は肩を竦めると、立ち去る女子生徒を見送る。

 すると今までエイルに声を掛けていた女子生徒に、自分達と同じ制服を着る男子生徒が近寄っていった。

 どうやら、相手がいないというのは嘘らしい。

「シッカリしているな」

「本当だね」

 女子生徒は、保険をかけていた。

 本当はエイルと一緒に授業を行いたかったのだが、断られる可能性が高いので声を掛ける前に違う生徒を見つけていたのだ。

 ちゃっかりしているというか何と言うか、女性の逞しさにただただ驚くしかない。

 同時に、恐ろしさも知った。

「声を掛けられたのは、これだけか?」

「いや、昨日から数回」

「はー、考えることは一緒のようだね」

「中には、男もいたよ」

「何を考えているんだか。仮にも、将来研究者を目指す生徒が……これだと、進級試験が危ないな」

 此処が普通の学園であったら、何ら問題はないだろう。

 しかし“メルダース”という名がついている場所だからこそ、このような些細なことでも大事になってしまう。

 調合ひとつもまともにできない生徒が、果たして進級できるというのか。

 それほどメルダースのテストは甘くない。

「僕に期待されても困るけど」

「この前の薬草学の成績、満点に近かったと聞いたぞ」

「あれは、簡単な調合だから点数が良かったと思う。内容が難しくなると、流石に事前の勉強が必要になってくるし。ラルフのように、ポーションの調合で爆発を起こしたりしない」

「ぶっ! ポーションの材料に、爆発の原因になる材料あったか? いやその前に、あれって爆発するか」

 エイルは頭を振ると「あるわけない」と、素直に答えた。

 服用して使用するポーションに爆発の原因になる物が混じっていたら、恐ろしくて飲むことができない。

 だが、ラルフは見事にそのポーションを爆発させてしまう。

 それも、あたりの物を吹き飛ばすほどの威力を兼ね備え。

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