ロスト・クロニクル~前編~

「はあ、よく進級できたよな」

「僕もそれが謎だよ」

「意外に、頭がいいのかな?」

「メルダースに入学できたぐらいだし」

 ラルフの素行調査を行ってみたいと思うエイルであったが、提出された内容が怖いのでそれは行うべきでないと判断する。

 いやその前に、調査を行ってくれる人物が見付かるかどうか。

 その道の専門家に頼むのが手っ取り早い方法だが、ラルフの為に余分な出費をする生徒はいない。

「これからどうする?」

「僕は、ラルフの様子を見に行ってから昼飯」

「それなら、一緒に食いに行くか。あんな奴、後でいいって。それにしても、よくあの部屋に入れるよな」

 彼が驚くのも無理はなかった。

 ラルフが使用している部屋は、生徒達の間では「禁断の部屋」と言われ、一般の生徒の立ち入りを拒む場所として有名であった。

 以前はオオトカゲが飼育されていたことが主な原因であったが、連れて行かれた後でもやはり誰も入ろうとはしない。

 何も、フランソワーだけが恐ろしいのではない。

 部屋の中に小動物のホルマリン漬けが置かれているという、おかしな噂が広まっていたからだ。

 無論、そのようなものは置かれていない。

「別に、恐ろしい部屋じゃないよ」

「あの噂は、本当なのか?」

「嘘に決まっているだろ? そんな物が置いてあったら、ジグレッド教頭が没収しているはずだし」

「そ、そうだよな」

 彼もまた “ホルマリン漬け”の噂を信じていた一人であったらしく、普通に出入りをしているエイルの答えに、胸を撫で下ろしていた。

 相変わらず面白い噂を流されるものだと、エイルは泣きたくなってしまう。

 あのような性格であったとしても、一応友人関係にあるからだ。

「疑問も解消したことだし、メシ食いに行くぞ」

「相手はいいのか?」

「決まっているから大丈夫だ」

「じゃあ、さっきのナンパなんだ」

 エイルの鋭い突っ込みに、相手は一瞬にして身体が固まってしまう。

 そのわかりやすい行動に「もし了承を得たら、相手はどうするんだ」と、心の中で突っ込みを入れた。

 どうやらその辺りを考えずに、声を掛けていたらしい。

 そして成功をしていたら、修羅場になっていただろう。

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