巡り合いの中で
「な、何をお求めで……」
「私が買い物をするのではなく、彼女だ。猫を飼うことになって、それに必要な物が欲しい」
「よ、宜しくお願いします」
その説明にアリエルは、店長と店員に向かって頭を垂れる。
妙に余所余所しい態度に恐縮してしまったのか、店長と店員も同じように頭を垂れる。
そのおかしなやり取りにセネリオは微笑を浮かべると、いつまでも互いに頭を下げていないで彼女を手伝って欲しいと頼む。
「は、はい」
「こ、此方に――」
セネリオの指摘に店長と店員は、慌ててアリエルを店の奥へと案内する。
一方セネリオは、アリエルの買い物が終了するまでの暇潰しで、店内に飾られている品物を見て回ることにした。
過去、一度として生き物を飼育した経験がないので、セネリオはこれらの商品が何に使用するのかわからなかった。
店員を呼んで諸品の説明を受けてもいいが、必ず恭しい態度を取られるので面倒と諦める。
それでも見ているだけで楽しかったので、セネリオは商品のひとつひとつを眺めて回った。
ふと、ある商品の前でセネリオの脚が止まった。
(これは……)
それは天然素材で作られた、小さい家のような物。
商品名を見れば「猫ちぐら」と、書かれていた。
(ちぐら)
当初、これがどのような商品かわからなかったが、近くに設置されているタッチパネルで調べたことにより、用途が判明する。
(なるほど)
「猫ちぐら」は、猫用の住み家。
それがわかった瞬間、セネリオはアリエルが買い物をしている方向を一瞥する。
イシュバールの決まりとはいえ、ミーヤに辛い思いをさせてしまった。
特に我が身が痛め付けられているようにアリエルは悲しみ、涙を流す。
少々酷なことをさせてしまったと、反省する。
(これで、いいかな)
せめてものお詫びということで、アリエルに「猫ちぐら」をプレゼントすることに決めた。
タッチパネルで値段を確認すれば、決して買えない金額ではない。
寧ろセネリオの稼ぎで考えれば、安いほど。
セネリオは店員を呼び寄せると、購入と共に配送してほしいと頼む。