巡り合いの中で

 ただ「猫ちぐら」だけは、内緒で購入することにした。

 アリエルが購入したのは、猫用の食べ物や雑貨類。

 思った以上に高額になってしまったが、セネリオに宣言しているので、今更「資金提供」をお願いするわけにはいかず、全て支払う。

 いい物を沢山購入したというのに、アリエルの表情は浮かない。

 その表情からセネリオは彼女の心情を簡単に見抜くが、先程の約束があるのでこれについて何も言うことはしなかった。

「もう、いいかな?」

「大丈夫です」

「じゃあ、行こうか」

 セネリオの言葉にアリエルは頷くと、彼の後を追う。

 ミーヤもアリエルの表情から何かを察したのだろう、前脚でアリエルの身体を器用に叩くと、元気を出してほしいと行動で示す。

 心配してくるミーヤに、アリエルは微笑みかけると「大丈夫」と言い、きつくミーヤを抱き締める。

 アリエルに気付かれないようにセネリオは一瞥すると、一人と一匹の微笑ましい光景に、フッと笑い口許を緩める。

 そして何事もなかったかのように視線を前方に戻すと、無言で歩き続けた。


◇◆◇◆◇◆


 その夜、セネリオは送られてきた猫ちぐらを持ち、アリエルのもとに向かった。

 突然のセネリオの訪問は勿論、猫ちぐらのプレゼントにあたふたしてしまう。

 反射的に発した言葉というのは「いりません」で、プレゼントをしようとしていたセネリオを唖然とさせてしまう。

「いらない?」

「ち、違います」

「それならいいけど」

「急だったもので……」

「受け取ってくれる?」

「その前に、どうして……」

「お詫び……かな」

 意味不明な言い方にアリエルは首を傾げるが、セネリオの説明になかなか受け取れないでいた。

 彼女が受け取ってくれないことに、セネリオは床に猫ちぐらを置くとミーヤを手招きする。

 するとミーヤは猫ちぐらに興味を示したらしく、トコトコと近付くと臭いを嗅ぎはじめる。

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