蜜は甘いとは限らない。【完】
「…お願い、します。
葵だけは普通の生活をさせてあげて……っ」
深々と頭を下げれば、どんどん目頭が熱くなって涙が溢れた。
瞬きをすれば直ぐにでも零れそうだ。
「…顔を、上げてみろ」
「はい」
熱くなった目頭と真逆に冷めていった頭で顔を上げて嵐川さんを見れば、頬を温かいものが伝った。
それでも目を逸らさずに嵐川さんを見る。
その途端、
「ふっ、はははははっ!!!」
嵐川さんが、笑った。
「…何が、可笑しいのですか」
「何が、可笑しい?
全部だ。全てが可笑しい!」
「だから何がっ」
「お前だ、」
「??」
「お前の、」
その、泣き顔が見たかった。
「泣き、顔?」
「あぁ、だが見れた。
これで決まった!!」
「決まった?」
「俺の、跡継ぎが」
狂ったと、思った。
急に笑い始めた嵐川さんに、周りも目を見開いている。
今日はこんな話をするために、集まったのではないのだから。
「俺の跡継ぎは、」
葵だ。