蜜は甘いとは限らない。【完】
「そんなことを始めたのは、跡継ぎのことが原因?」
「そうね。
まぁそれだけじゃなくて、グレる時期なのよ、高校生って言ったら」
「なら俺もいいじゃん」
「アンタは加減を知りなさい」
調子に乗るな。
そう意味を込めて頬を引っ張れば、すっと細い頬がのびた。
チッ、肌すべすべね。
怒るために触った頬だけど、触ったことに少し後悔。
「お嬢様、着きましたよ」
「あ、ありがとう」
ムニムニと葵の頬から手を離して自分の頬をマッサージしていれば、車が止まった。
……出来ればもっと早くに着いてほしかった。
「お嬢様、この後出掛けるのですか?」
「どうして?」
「いえ、出かけるのでしたらお送りしようかと、」
「あぁ、そうねー。
なら頼もうかしら」
「了解しました」
この後街に出るあたしにとって、いい足代わりになる。
だって寒いから歩きたくないし、タクシーは面倒だし、電車なんて嫌だし。
そう思ったあたしは家の中に入り服を着替えると化粧を直す。
少し、崩れていたから。
「痒、」
化粧を直す時、すごく痒くなった額をかけばかさぶたが付いた。
あ、これあの時の傷だ。
昔も、よくやられたなー。
ペリペリと取れる分のかさぶたを剥がして下地を塗る。
痒みはどうやらこの傷のせいらしく、剥がせば少し収まった。