蜜は甘いとは限らない。【完】
「ごめん、お待たせ。
「いえ。
……誰かとお会いになるのですか?」
少々時間をくってしまったあたしは急いで車に戻れば、葵は車内に居なくて山中だけが運転席に座ったままの状態だった。
「えぇ、少し。葵は?」
「タクシーを呼んで、さっさと帰られました」
「ふーん…」
さすが、あたしの弟。
待つのは嫌いだからね、あたし。
なんて呑気に考えながら車に乗り込むあたしは浮き足立っていたのだろうか、軽くドアに頭をぶつけた。
「クスッ大丈夫ですか?」
「…そう、思ってるのなら笑わないで頂戴」
「失礼しました」
そう言いながらも口元の緩みが無くならない山中に呆れる。
…なんか、山中のイメージが少し変わった。
こんな、人だったんだ。
「ところで寺島様に、会われるのですか?」
「ぶふっ」
思わず吹いてしまった。
「…どこまで知ってるの、一体」
「さぁ、どこまででしょう?
その反応は寺島様なのですよね?
本当、丸くなられましたね」
「……はぁ。
大人になってもあんなことしてたら、馬鹿でしょう」
あたしはそこまで、馬鹿でもない。