蜜は甘いとは限らない。【完】
「それもそうですね」
お嬢様はもう、跡継ぎが決定されましたし。
「え、まだよ?」
「え?」
「あたしは社長代理をするだけ、決定したわけじゃ、」
「まだ、気付いてらっしゃらないんですか?
旦那様がそう言ったのは、お嬢様に任せる気があるからですよ」
「そうなの?」
そうは、見えなかったのだけど。
自己中で、周りから頼られていないような性格のあの人が、そんなことを考えているようには感じられなかった。
「だから、前に1度言ったことがあるでしょう?
お嬢様が1番荒れている時に、私が怒った時に、」
“貴方達親子はどうしてここまで不器用なんですか?!”
…あぁ、確かに言っていたような記憶がある。
あの時の山中は、細い狐のような目を見開き更につり上げてあたしを睨んでいたから。
「覚えてるわよ、その時のことは。
だけど、どうしてもあの人のことは信用出来ない。
自分の父親だと分かっていても」
「…そのうち、分かるようになりますよ」
「そうね…」
「では、行きましょうか。
待たせているかもしれませんし。
どこに行けばいいですか?」
「あ、街に出てくれればいいわ。
駅の前に降ろして」
「分かりました」