蜜は甘いとは限らない。【完】
頷いた山中がゆっくりアクセルを踏んで車を動かす。
今夜はやけに冷えている気がする。
もし、寺島がもう待っていたら悪いことをしたなぁ。
「気になっているのですか?
珍しいですね」
「なにが?」
「前に希様を待たせていた時は、そんな顔なさってませんでしたよ」
「なっ…!!」
な、なにか変な顔してた?!
急いで手鏡を出す。
けど、自分では自分の変化がよく分からなかった。
心配…。
確かに希のときは遅れてもまぁいっか、で終わらせてた気がする。
だって、どうでも良かったし。
今思えば、割り切った関係のわりには仲は良かった。
「乙女ですね、お嬢様」
「っ、るさいっ」
「っと、運転中になにするんですか」
「なら黙って運転しなさいよっ」
尚からかうことを止めない山中の背後から拳をねじ込もうと思って殴りかかれば、ヒョイッと簡単に避けられた。
チッ、なんで当たらないのよ。
「山中、昔何かしてた?」
「昔、ですか?」
「えぇ。
ていうか、今山中何歳?」
「遠慮の欠片も感じられない質問ですね。29です」
「え、意外に若い?!」
「流石の私も怒りますよ?」
あ、背後が黒い。怖い。
「も、もう一度聞くけど、昔なにかしてたの?」
「……特に、何も?」
「(…絶対に嘘だ)」
黒いものが消えてやっと話しやすくなった山中にもう一度聞けば答えてくれたけど、間があった。
嘘付くの、下手くそ?