蜜は甘いとは限らない。【完】
嘘だと分かっていてももう一度聞き直さないのは、絶対に話してくれないことを分かっていたから。
「駅で、良かったんですよね?」
「あ、着いたの?」
「はい」
「そう、ありがと」
車を降りて山中を振り向けば山中は微笑んでいた。
え、なんで。
「ちゃんと、お話出来たらいいですね」
「…うん、そうね」
では、いってらっしゃいませ。
…いってきます。
バタン、
車のドアを閉めれば初めて見た山中の笑顔は見えなくなった。
……なんか、勇気を貰った気分。
歩き進める足取りは軽い。
軽い足取りをそのままに初めて寺島に出会った場所に向かう。
長く感じていたけど、まだ寺島と出会ってから1年も経ってないんだ。
…すごく、不思議な数ヶ月だった。
だけど、それも今日で終わりにしなければ。
「寺島、」
「……やっと来たか、馬鹿女」
…馬鹿は、どっちなんだか。
思い出の場所に着けば、そこには既にいつものような黒服を着た寺島でなくて、私服を着た寺島が待っていた。
寒いからか手には缶コーヒーを持っていて、手と鼻は赤い。
「別に、車の中で待っていればいいのに」
「ほっとけ。
お前が来た時に俺がどこにいるのか分からなくなって、迷子になられても困るからな」
「なるわけないでしょ。
馬鹿じゃないの?」
「はっ、お前がな」