演劇部の記憶

唖然として何も言えない１年生３人を横目に見て、家に帰った。

家に帰って、部屋のベッドで寝転がっていると、下から親が「喫茶「宮沢」のオーナーの方が来ているぞ」と言った。降りていくか降りていかないかわたしは瞬時にかなり悩んだが、結局玄関先に降りていった。
「なんですか」わたしはマスターにぶっきらぼうに言った。
「弘君もみんなも待っているよ、あなたのこと」
「うそをつく人と一緒にやりたくはありません」
　その言葉を聞いて、マスターはじっとわたしの顔を見つめた。そして、数回首を振った後、わたしに言った。
「うそをついたのは、弘君じゃない。私なの」
　わたしは、なにも言い返さなかった。マスターが続けた。
「弘君が、この３月まで東京に住んでいたということは知っていはるやろ。お父さんは新聞社で記者さんをやられていはるの。そこで少し問題があって、家族で大阪に来ようとしたけど、東京の仕事から離れられず、結局、弘君のお母さんの姉である私の所で弘くんと生活することになったの。でも、本人がもう高校生なのだから一人暮らしをしたいということで私の家の近くで一人暮らし始めたの。そして、……」
「少し問題というのは……」
　マスターが弘に対して他の生徒に対するときと微妙に態度が違うことにはうすうすわたしは気づいていた。しかし、親族関係があるとは思わなかった。いろいろな思いがまじりあって出た言葉がこれだけだった。
「最後まで聞いて。その時点で、弘と無関係の第三者のようにふるまった私に一つ目のうそがあるの。そして、こっちに来て演劇の部活……、そう、弘は向こうで演劇部をやっていたの。そこで、後輩の書いた脚本を厳しく批判したら、その子が自殺しはって、それで弘も高校行きにくくなって留年しちゃって、こっちに来たということ。私は、こっちに来て演劇の部活がなくて、目標を失って落ち込んでいる弘には東京でも目指していた明日の大会しかないと思ったの。だけど、ここには演劇部がなくて私の店にも勧誘ビラを置いてあげたの。そして、それをあなたに渡してしまった。つまり、すべて私が悪かったわけなの。最初に弘と私の関係を話すべきだった。だから、あなたが恨む相手は弘じゃなくて私なの。明日の練習今からやらない。みんな待っているの」