演劇部の記憶
そういう記事だった。そして、その記事の横の写真を見て、わたしは言葉を失った。父親の後ろ姿がうつっていた。薄薄感じてはいたが、実際、このように新聞に載ると、やはりそうだったのか思った。いや、父親が何も悪いことをしたわけではない。だけど、父親のせいでわたしがこんな目にあっている、そう思うと、「なんでこんなことしたんや」の一言くらい言いたい気もする。
「ああ、もうわからないわ」
 わたしは、そう言って新聞を放り投げてベッドに寝転んだ。その時、チャイムがなった。

『大日本テレビのものですが、お父様のことでうかがいたいのですが』

「うるさい」
 わたしは、短くそう叫ぶと、ベッドの中に潜りこんだ。そして、ベッドの中では、理由はよくわからなかったけど、涙が流れてきた。

 それから数日、わたしは、食事を取る以外はベッドでごろごろしている生活を送った。外に出ると報道陣がずらっと並んで、わたしをシャッター攻めにするのではないか、実家に電話しようにも携帯に電源を入れると何が着信するかわからない。そういう不安が消えなかった。家の中にある食べ物は残り少なくなってきた。
 
 そんな時。また、ドアを「ドン、ドン」と叩く音がした。わたしは、ベッドの中にまた頭から潜った。また、嵐が来た。これを過ぎるのを待とう。
 しばらくするとその音は消えた。そして、しばらくすると、今度は窓を「コン、コン」叩く音がする。しつこい嵐だ。しかし、「先輩、いるんでしょ」という聞き覚えのある声がした。
 わたしは、ベッドをまくりあげて、窓の方を見た。
――やっぱり、弘か。
 わたしは、窓を開けようか、どうか悩んだ。今は誰とも話をしたくない。しばし、弘の姿を見ていると、弘は胸ポケットから封筒を出して、仕切りにわたしに示す。わたし宛の何かだろうか。わたしは窓を開けた。弘は、窓枠に手をかけて部屋の中に入った。

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