演劇部の記憶

『いつも私が言っていた、「失敗は謝れ、卑怯な事をするな、人に迷惑をかけるな」の三原則、おまえにも守らせるためには、私自身が守らないとだめな。

おまえの携帯に何度も連絡をとっているんだが、電話に出られないようだね。おまえの所にもいろいろな電話が来ていないかと心配している。少なくても、今、うちの周りには取材陣が多く来ている。お前の所にも電話とか取材とかが来ているんだったら、私はおまえに迷惑をかけたことになるな。本当なら、すぐにでもおまえのところに行きたい。しかし、私が動くと取材陣におまえをさらにさらしてしまうことになる。だから、行けないんだ。わかってほしい。

そこで、高校の後輩である弘君にこうやって手紙を頼むことにした。弘君にも傷がつかないかと心配したが、弘君のお父さんが新聞社のデスクということでいろいろ取り計らいをしてくれて無事に頼むことができた。だから、ここでお前に迷惑をかけてしまった事の経緯について少し読んでほしい。いや、迷惑をかけながら頼むなんて父さんわがままだな。許してほしい。
　
去年の四月。父さんが勤めていたハートフル畜産の代表が変わったんだ。それからしばらくすると、代表から外国産の肉を国産とするよう指示があったんだ。父さんは工場の現場を預かるものとして反対した。行政にも相談した。だけど、代表の指示は変わらなかった。だめだよな。父さん無力だったんだ。

去年の４月から、家にそれまでのように食肉を持って帰らなくなっただろ。あれは、嫌だったんだ。だました肉を家族に食べさせるのが。でも、結果的に、全国の人にだました肉を食べさせていたんだから、そんなこと言えないよな。

それで、今年の４月から、お前の知ってのように会社を変わった。給料は安くなったけど、食肉を偽装する会社には残れなかった。本当は会社を移ったし、もう偽装のことは忘れようと思っていた。しかし、会社に残っていた若い職員から相談を受けたんだ。