【完】籠球ロマンティック
「リッコ……な、お前、何やってるんだよ!」


一人だと思っていた空間。今まさに、自分の『要らないもの』を捨てようとしているその瞬間に、自分以外の人間がいる。


逸人だった。いつもはちゃらけていて、シスコンだと周りに言われるくらいに律子を溺愛している明るい逸では無く、このものものしい異様な空気に合わせピリピリとした表情で律子を見つめていた。


「イツ……?あんた、練習は?」


「オフだよ。……じゃなくて、俺は何やってんだって聞いてんの!」


声を荒げた逸人は、その俊足であっという間に律子の元へと駆け寄る。


「見れば分かるでしょ!私は要らないものを捨てるのよ!」


「そんなの黙認するわけ無いだろ!意味わかんねーし!あぶねーし、つか、血出てるから止めろし!」


律子の包丁を握る手を掴んだ逸人の手は力強く、非力な律子はあっという間に希望の刃を奪われる。


「返してよ!イツには分からないでしょうね!女に生まれて、こんな要らないものばかりが日々増える私の気持ちなんか、人生上手く行ってるイツにっ……!」


言葉が詰まった。息が苦しかった。


要らないものの塊の自分と、自分が欲しいものを全て持った逸人が、正反対の生き物に見えて、律子は苦しかった。
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