イジワル上司に恋をして
香耶さんは目をまんまるくして、びっくりした顔をしてる。
そりゃそうだよ。脈絡なさすぎるし、第一、こんな突然に、『彼女いるのか』ってことを聞いたら……。
「なっちゃん……黒川くんのこと……好きなの?」
ほらー!! そうなるでしょ! 普通、そうなるでしょうよ!
なの花! そのくらい、常識で考えればすぐにわかるでしょっ。
「や! いやいや! そ、そうではなくて……」
両手を目の前に突き出すように、ぶんぶんと横に振る。
だけど、香耶さんの目を見る限りでは、まだ疑ってるみたい。
もうどうにでもなれ! と、わたしが続けた内容が……。
「きょ、今日! 今日、ものすごい美人が、黒川さんを尋ねてきたので! でも、ただの知り合いだったような」
「黒川くんに……?」
「え? あ、はい……」
一瞬、香耶さんが曇ったような表情をした気がして、わたしは口を噤んでしまった。
でも、すぐに香耶さんが、ニコッといつもの笑顔を浮かべたから、ホッと胸を撫で下ろした。
「黒川くんは彼女いないと思うわ」
「あ、そ、そうですか……。いえ、でも本当、わたしはべつに」
「でも」
「え?」
わたしの語尾を遮るように、香耶さんは少し俯いて、遠くを見つめるようにしながらぽつりと言う。
「……今は、知らないけどね」
……ん……? なんか、引っ掛かりを覚えたのは、気のせい……かな。
目を少し伏せていた香耶さんが、パッと顔を上げて、いつもの香耶さんに戻る。
「さ! なっちゃん。確認終わったら上がってね? お疲れさま」
「あ、はい……」
何事もなかったかのように。
香耶さんは軽く手を振って、事務所へと戻って行ってしまった。