イジワル上司に恋をして

メールなら、不意なものでも文章を推敲したり出来るけど。電話だとそうはいかない。
無言になりすぎたらダメだし、かと言って、わたしは頭の回転が早くないから……。

まるで仕事中のような緊張感で、直立姿勢になったわたしは、バクバクと心臓を鳴らしながら電話に集中する。

……治まれ、わたしの心臓っ。

必死に念じて、呼吸をゆっくりと繰り返していたのに、西嶋さんはわたしのその苦労も知らずに言った。


『今から、会える?』


たったその一言で、一気に体じゅうが熱くなる。
落ち着きなくそわそわと辺りを動き回って、ヘンな間を作ったあとにようやく答えたわたし。


「え、えぇと……あー……は、はい。大丈夫です」


こう、突然の誘いだと、心の準備が出来ない。でも、特に予定はないわけだし、なにより告白されてから一度目の誘いを断ってしまうと、なんだか気まずい気もして……。

かといって、やっぱり余裕はないから、緊張しちゃってるし。
……わたし、もう自分でどうしたらいいのかわけわかんない!


『本当? やった……!』


耳元で喜ぶ声が聞こえて、電話だと言うのにやっぱりわたしは照れてしまって、意味もなくロッカーの隙間に隠れた。
狭く暗い隙間で、指定された待ち合わせ場所に「はい」と答える。

『それじゃ、あとで』と言われ、最後にまた「はい」と返すときに、気持ちが落ち着いてないわたしは見えもしないのにお辞儀をして、目の前の壁におでこをぶつけてしまった。


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