イジワル上司に恋をして


「あ。なの花ちゃん!」


待ち合わせしていた場所で、西嶋さんはわたしを見つけて大きく手を振る。
数メートルの距離を小走りで駆けよると、彼は仕事後にも関わらず、やっぱり爽やかな笑顔だった。


「いつも突然でごめんね? その日にならなきゃ、早くあがれるかわかんなかったりするから……」
「あ、そうなんですね。いえ、わたしは大体いつも真っ直ぐ帰るだけなので」


……なんて、普通を装って会話をしてるけど。
今、メールと同じように、わたしのこと「なの花ちゃん」って呼んでくれたよね? うわ、なんか、実際呼ばれるとメールの数十倍気恥かしい!

23にもなって、って、絶対笑われると思うけど。
でも、こんなちょっとした変化とかがくすぐったくて、ひどく照れる。


その、今にものたうち回りたいほどの衝動を懸命に堪え、少し俯いて平静を装う。


「んー、どうしよっか。とりあえずお腹空いたよね」


仕事あとだから、お決まりの流れ。
でも、毎回毎回お財布を気にせず飲み歩いてもいられない。っていうのは、わたしの事情だけど。

契約社員のお給料は、減りもしないけど増えもしなくて。
普段から贅沢はしていない方だと思うけど、ここで見栄を張れるほど、わたしのプライドなんてないから……。

ここは、正直に。


「わたし、お酒飲まなくてもいいので、西嶋さんさえよければ、ああいうところでも構いませんけど……」


そうして視線を向けたのは、たまたま近くに見えたファミレス。


「……ははっ」

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