イジワル上司に恋をして

そんな深刻な空気に、黒川の向こう側から聞こえてきた声と姿にハッとする。
動揺した私は、香耶さんを見ることが出来ずにその場で俯く。

……どうしよう。この雰囲気、香耶さんならなにか感じちゃうかも。

頭の中でパニくっていると、突然黒川がわたしの腕を掴んだ。


「えっ、ちょ……」
「無理するな。看護師はもういない時間だけど、薬はあるだろう。ちょっと横になってから帰宅するように」


驚いて顔を上げれば、心配そうな表情を浮かべた美形上司が目の前にいて。
その顔と言葉と、なにがなんだかわからない状況に、ただぽかんと立ち尽くす。


「えっ。なっちゃん具合悪いの? 大丈夫?」
「仲江。悪いけど、医務室まで連れていくから、ミーティング先始めてて」
「あ、はい。わかりました」


そうして、なぜだかわからないけどヤツの手がわたしの肩と腕に添えられて、香耶さんの前を横切ってその場を後にした。

終始無言で3階の医務室に連れられる。
初めて入ったけど、学生のときの保健室のような雰囲気で、なんだか懐かしかった。
誰もいないことに仮病を使わされたわたしはホッとした半面、黒川と二人きりということに緊張してしまう。

掴まれてた腕は、まだ離されてない。

ピタリと部屋の中央で立ち止まると、掴まれてる手を見ながらぽつりと言った。


「……もう、離してください」


チラッと上目で黒川を睨み、腕を体に引き寄せるようにして逃れようとしたのだけど……。


「オマエ。本当にすぐ感情を表に出すからめんどくさい」

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