イジワル上司に恋をして

さっきより、少しだけ柔らかくなった気がする表情。
それを見ると、こっちも自然と顔が綻ぶ。

そして、なんだかこの人を、どうにかもう少し緊張を和らげたい気持ちになって話を続けた。


「……緊張……しますよね」
「……向こうの、会社の人がメインの披露宴みたいな感じなんです。だから余計に……」
「会社の方、ですか……」


ふと、どうでもいいようなことを思い出して、そのまま口にした。


「そういえば、わたしもよく仕事の面接なんかでは緊張してました。いつも会社に着く頃にはガッチガチ……それで、藁にも縋る思いでツボ押ししてたり……」
「ツボ?」
「あ、手のツボで。こことか、こーいうとことか……」


そうして、いつしか友達に話をしているかのように、自分の指の付け根を押して見せた。


「ココらへんかな……。コレやって、効きました?」
「……効いたような……? あ、でも、ここの面接のときもそれやって。無意識だったんですけど、本番でもツボ押ししてたみたいで、わたし」
「えぇ?」
「前の上司だったんですけどね、面接官が。その様子みて笑って、『そこは眠気解消のツボだよ』って突っ込まれて。そのとき、『ああ、もう落ちた』って思いましたよ。一応必死に面接中に『眠かったわけじゃないんです!』って訴えちゃったんですけどね」


そうそう。その面接からお世話になってた部長がいなくなっちゃって。……で、代わりに来たのが黒川で……。

はっ! 油断したらまた思考がアイツ色に染まっちゃう! ヤバイ、もうなんか末期かも!


「……ふふっ。面白い……」
「え?! あ! はは……そうですよねぇ。なんで採用になったか今でも不思議です」
「あ。なんか笑ったら少し気が紛れた感じ……」
「……なら、本番でもこの話思い出して笑ってください。……あ」


あることを閃いたわたしが声を上げたのと同時に、香耶さんが戻ってきた。

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