イジワル上司に恋をして
「すみません! 待って頂いて……あの……こんなものを思いついたんですけど」
勢いで試してみたものの、お客さんに直接ぶっつけ本番で渡すって……といまさら緊張してきた。
でも、それこそいまさら引き返すわけにはいかないから。
香耶さんが見てる中で、女性に両手を差し出すようにして延ばすと、ゆっくりと手を広げた。
「……かわいい。これは……?」
「あの、ポプリ……みたいになるかな? って思って……。よく、気持ちを落ち着けるのにアロマとか聞くのを思い出して。柑橘系の香りだと、馴染みもあるでしょうし……」
そう自信なさげに説明すると、その人は両手で受け取ったまま顔に近づけて香りを確かめた。
「わぁ……本当。いい香り」
「それだけ小さければ、もしかしたら式の間もブーケと一緒に持てたりしないかな……なんて。あ! 無理なら控室まででも……」
香耶さんの顔を見て、出過ぎた真似をしたと慌てて軽く手を振って付け加える。
すると、香耶さんはにっこりと笑って女性に顔を向けて言った。
「……ご希望でしたら、そのくらいのサポートはさせていただきます。常に……というのは難しいかもしれませんが、傍に置いておくことは可能かと」
フォローしてくれるような言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。
ああ。よかった。
香耶さんもこう言ってくれたし、この花嫁さんも喜んでくれたみたいだし。
それに、さっき淹れたミルクも全部飲んでくれたみたい。
空になったカップを見て自然と笑顔になったわたしは、そのカップを回収して頭を下げる。
「それでは……。素敵な日になりますように」
不慣れな言葉を口にすると、内心結構照れる。
でも、そんな珍しい言葉を言える瞬間が、普段は感じない種の〝やりがい〟で満たされた気がした。