イジワル上司に恋をして


それから数時間経った頃。
ショップは良いのか悪いのか……いつものように穏やかなまま過ぎていた。

そこに、朝にちらりとだけしか見なかったアイツが突然現れた。


「悪い。ちょっと鈴原さん借りてもいい?」


白い歯をちらりと見せて、爽やかな笑顔で美優ちゃんに言うや否や、わたしの腕を掴む黒川。

その好青年っぷりの笑顔に反して、掴んで引き摺っていく力が強引なんですけど!

凝視するようにヤツを見上げるけど、ショップを出てしばらくはこっちを見ることもせず、ただわたしを引っ張っていく。
ようやく、人通りが少ない階段あたりで手を離すと、俺様上司が降臨。
さっきまでの爽やかお兄さんはいずこ……。急に気だるい顔つきになって、わたしに言う。


「ちょっと付き合え」
「はっ……はぁ?! なんなんですか?! いつもいつも……」
「うるせえ。これは仲江からの指示だ」


「うるせえ」って何よ!! って、いつもなら突っ込むところだけど、今回は別。
その後に続けられた言葉に、そんな反応してられない。


「え? 香耶さん? なにかあったんですか?」


今朝は至って普通に見えたけど……。

疑問に思ったわたしは、黒川の感じ悪さを無視して尋ねる。
すると、ヤツはなにも発さずに、なにかを答えるような目を向けただけで背を向け歩き出した。


「ちょっと……!」


追いかけながら呼びかけても、ヤツは足を止めずにそのまま階段を昇る。
イライラとしながらもそのまま追っていくと、前にも来たことのある会場に辿り着いた。


「……え? ここ……」


< 285 / 372 >

この作品をシェア

pagetop