イジワル上司に恋をして
ここは前、香耶さんの担当していた式を見たことのある会場だ。
今日も香耶さんはここにいるんだ。あ、さっきの花嫁さんの式かな?
大きな扉を前に見上げながら、そんなことを考える。
横に並んでいた黒川が、一歩前に進んだ。
「ついてこい」
……は? え? なに? やっぱりまた、披露宴会場に入るわけ?!
薄々は『そうかな』って思ってたけど、いざやっぱりそうなると、多少は緊張するわけで。
でも当然そんなわたしの気持ちを、汲み取ってるであろうコイツが待ってくれるはずもなく。
その長い手を延ばし、扉に手を掛け押し開けると、振り向くことなく会場に入っていく。
わたしは慌ててその後を追って入る。
中に入ると、外とは違ってかなり暗めの会場に、目が慣れずにしばらくなにも見えずに突っ立ってしまった。
それを横から少し乱暴に引き寄せられ、小さく驚きの声を上げてしまう。
「ボーッとしてんじゃねぇ。ちゃっちゃと動け」
「……すみません」
口を尖らせるように謝ると、賑わっていたはずの会場が静寂に包まれていることに気がつく。
そういえば、さっきボーッとしてるときにマイクでなにか言っていた気がするけど……。次のプログラムはなんなんだろう。
黒川の横で会場を見渡すと、スポットライトを浴びた新郎新婦が席を立つところ。
対面側には、今スタンバイを終えた様子のご両家のご両親が並んでいた。
……っていうことは、つまり、一番感動的な……。
「花嫁の手紙と、花束の贈呈だ」
心の声がまるで聞こえていたかのようなタイミングで黒川が呟いた。