イジワル上司に恋をして
『やっぱり!』と、視線を花嫁に向ける。
赤の他人。しかも、今しがたここに入ったばかりのわたしですら、緊張感が半端無い。
花嫁さん、大丈夫かな……。
もう披露宴も終わり頃だから、慣れてるかもしれない。
今朝言葉を交わしたことで、一方的に少し親しみを覚えてしまったから、すごく心配。
その気持ちを視線に乗せて見つめていると、ふと、その花嫁さんと目が合った。
そして、ほんの数秒だけど、目を合わせ……確かに、彼女は微笑んだ。
……笑ってくれた。
ていうか、まるで、わたしが初めからココにいるのを知ってるかのように、こっちを見てくれたような……。
疑問の念を抱きつつ、定位置に着いた花嫁さんは、手紙を渡され読み上げ始める。
その声は細く震えていたけど、原因は緊張からじゃないっていうことがなんとなく感じられた。
それはただ、ご両親への感情が溢れ出したことが原因の嗚咽混じりの声だって、素人のわたしにもわかったから。
感動して見届けている最中(さなか)、さっきとは逆の腕を引かれて驚いてしまう。
辛うじて声はあげなかったけど、完全に油断してたから心臓は止まりそうになった。
「ちょ、ちょっと。毎回毎回、いきなり引っ張ったりするの、やめてください。心臓に悪い……」
会場の外に連れ出されたわたしは、腕を掴んだままの上司を睨み上げるようにして言った。
「……よくあの短時間で泣けるな」
「……よく、毎回これを、なにも感じずにいられますね……」
目に浮かぶ涙を流さぬように、指で拭って吐き捨てる。
未だに視界が滲む中、さらに目立たない死角へと引き寄せられた。