イジワル上司に恋をして
落ち着きなく、大きな手で自分の髪を掻き上げながら。
暗い夜道だと、顔が薄ら赤くなる程度は隠せるということを利用して。
「……なんだよ」
「……別に」
『ありがとう』が言えない黒川のその渋い顔は、照れ隠しのつもりだって、わたしにはわかるから。
ちょっと上から目線で対応したわたしが面白くなかったのか、自身の黒い髪に挿し込んでいた手でわたしを軽く小突く。
「いたっ」
咄嗟に頭を抑えて、涙目でもう一度見上げると今度は反対の手が目の前にあって。
「返品不可」
「えっ……」
反射で差し出した両手の中に落ちてきたチョコレート色の小箱。
さらりとした質感が手から伝わると同時に、その正体がわからなくて黒川を見た。
「明日。30分早く来い。忘れんなよ」
素早く背を向けるようにして、さっさと歩きだした背中をぽかんと見送る。
黒川はあっという間に見えなくなってしまって、ここまで来たときは歩く速度を合わせてくれてたんだと気付いた。
「……一回くらい、振り向いてよね」
一度も足を止めることなく去って行った道に、ぽつりと漏らした。
両手にあるものを大事に包んで、階段を昇る。
部屋に入るとそれをテーブルに置いて、ストンと腰をおろして眺め見た。
……これは、なに?