イジワル上司に恋をして
こんな形の箱って……〝妄想女子〟のわたしじゃなくても、いろんなことを想像してしまうと思うんですけど。

未だ鳴りやまぬ心音。
黒川が家まで送ってくれたことを証明するように、その茶色の箱はテーブルの上で存在感を誇示してる。

そっと手を伸ばして、リボンに手を掛けたときにバイブ音が鳴った。

ドキリとして背筋を伸ばす。そして、ポケットに手を突っ込むと、まさかこの電話は……なんて淡い期待をしてしまう。

だって、一度でも電話を鳴らされてしまったら。
次もあるかもしれない。あって欲しい、って思うのは普通でしょ?

ぎゅ、っと携帯を握りしめ、画面を確認すると、一気に力が抜け落ちた。


「はい」
『あっ。なの花! もう仕事終わったー?』
「うん。今帰ったとこ」


着信の主は由美。
そうだよね。さっき自分でも考えてたことじゃん。『携帯なんて滅多にならない』って。
そして、鳴るときには大体相手は親か由美。


「どうしたの?」
『うん。あのね? 本当はこの前の電話のときに話そうと思ってたんだけど……なの花が大変そうだったから』
「この前……? あ」


そうだった! 由美には西嶋さんとのデートのこととか話して、相談聞いてもらって。で、肝心の由美の用件聞かないまま今までいたんだった! やだ。わたし、最低じゃん。


一気に思い出したのはいいけど、あれから状況が目まぐるしく変わってる現状。
なにからどう説明すれば……。


『その言い方だと、ひと段落ついたみたいね? じゃあ、まずはなの花からどーぞ』
「……はい」
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