イジワル上司に恋をして

そうして由美にも一連の流れを伝えると、由美が大げさに祝福してくれた。


『じゃあその部長とくっついたのね! よかったじゃない! おめでとう! 西嶋先輩は……まぁ、ちょっと申し訳ないけど』
「……『ちょっと』じゃすまないんだけどね……」
『仕方ないのよ。恋愛なんて、誰も傷つかないなんてことあり得ないんだから』


由美にそう言われると、少しだけ心が軽くなった。それでも、西嶋さんへの罪悪感は拭いきれない。

〝罪悪感〟

これを、黒川はずっとずっと一人で背負い続けてきたんだ。
わたしにはこうして信用できる由美がいてくれて、その由美に励まされると、元気が出る。

だけど、黒川はそうなれなかったんだなぁ……。
裏切ってしまったという罪と、裏切られたという不信感と。
それらを受け止めてあげる程の人にも出会えなくて、ずっともがいてたのかもしれない。

黒川から渡された箱を手に取って、いまさら気付く。


『……オマエがきっかけだと……思って、る』
確かに黒川はそう言った。

――あ。これって、もしかして、『ありがとう』っていう気持ちのプレゼントなんじゃ……。
言葉に出来ないから、こんなふうに気持ちを表してくれたのかも。

不器用な気持ちが温かすぎて、笑いを零してしまう。


「……由美、ありがと。ところで、由美の用事ってなに?」
『ん? ああ、そうそう! わたしたちの結婚式、なの花のホテルにしようかなと思って。なの花がうまいことサービスして貰えるようにしてくれないかなーってね!』
「ああ、そういうこと? でもわたしブライダルじゃないからどこまで出来るかわかんないよ」
『なーに言ってるのよ! いるじゃない! 強力な人が!』
「えー?」


ソファの柔らかい背もたれに、ぼふっと体を預け、苦笑しながら答える。
そのときは、全然頭になかった。


『ぶ・ちょ・う・が!』


由美の言葉が耳に入ると同時に息が止まる。

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