夏音の風
去年もそうだった。
一昨年(おととし)も、その前の年も。あの巫女の姿になると、必ずと言っていいほど嫌な気分になる。小さい頃は、あの服を着れることが嬉しくて毎年この時期を心待ちにしてたっていうのに。
窓の外は一面田んぼだらけだ。そんな貸し切り状態のバスの中で、夏音は一人思った。
――祭りなんか無くなればいいのに、と。
ガタゴトと揺れるバスの中は、普通の高校生よりも早起きの夏音にとってはよい睡眠の場所だった。例え他に乗客が乗ってきたとしても、そんなものはイヤホンを通して音楽を聴いていれば何も問題ない。学校に着いてしまえばまたクラスメイト達と顔を合わせなくてはいけない。面白くない話に耳を傾けて、笑って話を合わせなければならない。決して友達がいないとかイジメられているわけではないが、どうも夏音はあの学校に馴染めていないのだ。
三年間ここで我慢したら、この街を出るんだ。
そう自分に言い聞かせているとはいえ、具体的な進路など決まっているわけでもない。
いくら実家が神社だからと言って、それを継ごうだなどと微塵も考えていない。
全てに淡泊で、面倒臭いことが嫌い――
それが倉科夏音(さらしなかのん)の長所でもあり、また短所でもあった。