夏音の風

―――



『――メサマ、ヒメサマ』



遠くで誰かが誰かをずっと呼んでる。
この声って……男の子?



その声の主に導かれるように、夏音は寝ぼけながらもゆっくりと目を開いた。



「終点です」


「わっ!!」



視界を覆う運転手の顔に驚きながらも、夏音は慌てて鞄をつかんだ。


「すみません!!」


少し眠るつもりが、気づけば両耳を塞いだはずのイヤホンも外れるだけ体を傾けて深く眠ってしまっていたのだ。


慌てふためく夏音を尻目に、運転手は『待って』とその足を止めた。


「姫様、お待ちしておりました」


通路を塞ぐように、今度はかしこまる姿勢で夏音を制止する。


「……ひめ?」


『ひめ』って、この人何言ってるんだろう?
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