ベジタブル

 弟子を取ったことを祝ってくれることは嬉しいが、床を汚されるのは堪ったものではない。食べ物を作る場所は清潔が第一で、汚れの影響でネズミが現れるようになったら店の評判が落ちてしまう。折角ここまで築き上げてきた信頼を一気に崩す行為だけは、止めて欲しかった。

 ジークは、彼等に対し容赦はしない。大声で叱咤すると、男達を追い出していく。そして次に怒りの矛先を向けたのは宴会に参加していた弟子達で、二人に掃除を行うように命令する。

 普段は温厚なイメージが強いジークが、怒りで身体を震わしている。その世にも恐ろしい姿に、二人急いで掃除をはじめた。だが慌てて行っている為に、互いの仕事を邪魔してしまう。

「落ち着け」

「は、はい」

「二人で、同じ場所を掃除するな」

「す、すみません」

「ほら、キビキビ動く」

「はい」

 しかし動揺している二人が命令そのままに動くことはできず、今度は互いにぶつかってしまい調味料を落としてしまう。舞い上がったそれは粉末の胡椒で、それにより大事に発展してしまう。

「お、おい」

「も、申し訳――」

 刹那、全員がくしゃみを繰り返す。その結果、鼻水が噴出し見るも無残な醜態を晒してしまう。それを遠巻きに見ていたルイスは腹を抱えて笑い出すが、ジークの凄みによって黙り込む。それでも笑いを簡単に止められるものではなく、今度は口を手で覆うと肩を震わせながら笑い出す。

「……ルイス」

「いや、悪い悪い」

「手伝え」

「嫌だ」

「食わせないぞ」

「そ、それは――」

「なら、手伝え」

 流石に、その一言は効果が高かった。何よりルイスはジークの料理を楽しみにしているので、箒を渋々ながら受け取るとルイスは床の掃除をはじめる。すると途中でやる気が途切れてしまったのか、効率が悪くなっていく。それを見たジークは、食べ物で彼を釣る方法を取る。
< 48 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop