ベジタブル
「掃除が終わったら、夜食を作るよ。と言っても、手の込んだ料理は時間的に無理だけどな」
「本当か?」
「嘘をついて、どうする」
「そうだよな」
「師匠、俺達も――」
会話に割って入る形で、恐る恐るレイとディランは自分達の意見を言う。ジークの手料理となればどのようなことがあろうと食べたいと思うのが普通であり、何より料理の勉強になる。それ以前に「食欲」という本能が疼くのだが、今の状況では食事にありつけはしない。
下手をすれば再びジークを怒らせてしまうが、引き下がるわけにはいかなかった。立派な料理人になるには多少の辛さや我慢は覚悟しているので、これくらいのことではめげない。それは食に対しての高い情熱と同時に、ジークに少しでも近付きたいという純粋な感情がそうさせていた。
瞳を輝かせつつ、二人は懸命に訴えていく。この調子だと、了承するまで言い続けるだろう。それに弟子として受け入れる前から付き合っているので、ジークは二人の性格は理解していた。
ひとつの物事に、集中する。
簡単に、諦めない。
それが、彼等の性格の特徴だった。
それに尊敬する人物の料理が食べられるのなら何でも行なうという、実にわかり易い性格の持ち主。そのことを知っているのでジークは苦笑しつつ、彼等の熱意を受け入れ了承した。
ジークの言葉に二人から歓声が上がり、その場で跳躍を仕出す。しかし、悲劇は突如訪れるもの。彼等が両手を上げた瞬間、棚に置かれていた砂糖を箱ごと床に落としてしまった。
ぶちまけてしまった胡椒の上に、今度は砂糖が舞い落ちる。それを見たジークは怒るより、諦めの方が強かった。手伝いに関しては有能な弟子なのだが、このような点では問題が多い。過去にも数回、このように調味料をこぼしたことがあった。お陰で、至る所にシミが残っている。
「雑巾で拭く」
「は、はい」
砂糖は熱で溶けると粘つきが酷いので、それを解消するには拭き掃除が一番であった。ジークはバケツと雑巾を弟子達に手渡すと、自身は隣の部屋へ向かう。それは夜食を作るに必要な材料を取りに行っただけなのだが、一連の動作に何か恐ろしいものを感じ取ったのかルイスが身震いをした。