ベジタブル
「し、師匠」
「もっと欲しいです」
「我慢だ」
「で、ですが……」
ルイスを贔屓していることにレイとディランは愚痴を言い続けるが、ジークは目配せで贔屓する意味を教える。最初はジークが何を伝えようとしているのは判断できないでいた二人であったが、チラチラと何度もルイスに視線を向けている師匠の姿に閃く。レイとディランは互いの顔を見合い一度大きく頷き合うと、何事もなかったかのようにフルコースを食していく。
「濃厚!」
「甘味が、最高です」
「こんなに美味い物が、あっていいのか」
「幸せです」
「天国のようです」
フルコースの時と同様に、三人は別の世界へと旅立ってしまう。そして暫く帰ってくるのを拒んでいるのか、彼等は恍惚の表情を浮かべたまま固まってしまっている。その姿にジークは苦笑すると、思いっきり手を叩く。刹那、三人は急に現実へ引き戻されてしまい切ない表情を浮かべていた。
「勝手に、トリップするな」
「は、はい」
「……すみません」
「いい夢を見ていた」
しかし、ジークの手料理を食べて別の世界へトリップしない方がおかしい。それだけ夢心地を与え、桃源郷を垣間見る。それでもジークにしてみれば早く食事を終えて欲しいし、片付けをしたいと考えていた。彼にしてみれば長々と故郷に滞在する気はなく、早く店に戻って営業を再開したかった。
「後片付けは、お前達の仕事」
「えっ!」
「何だ?」
「何でもありません」
「じゃあ、宜しく」
凄みのある睨みに、レイとディランは素直に従う。一方ルイスは、自分は何をすればいいのか尋ねる。本来であったら知らん顔をしていればいいのだが、反射的に口が開いてしまう。彼自身、ジークの裏の一面を嫌でも知っている。知っているからこそ無視を決め込んだ場合の対処がどのようなものなのか理解しおり、だからこそ自ら進んで仕事を買って出る。