彼の手
結局その日は外に出られる状態じゃなくなったあたしの顔。

泣き疲れたあたしが眠るまでずっとそばにいてくれた彼は、目が覚めたときにはいなくなっていた。




それから今日まで、彼のおかげで心がどん底まで沈まずに済んでる。




日常生活を取り戻すのに、仕事という逃げ場があってホントによかったと思う。




考える時間を作らないように仕事に没頭した。





そして、大きな新規プロジェクトのデザインを彼と任されることになった。


今思えば、それもあたしに考える暇を与えないようにとの彼の気遣いだったのかもしれない





だって悔しいかな同期入社とはいえ、彼の才能はあたしの遥か上をいく。

だから、プロジェクトは彼一人で十分こなせる。




だけど、その頃のあたしはそんなことも気づかず、初めて任された大きなプロジェクトに舞い上がった。



そして痛感する実力と才能の無さ。




些細な事で落ち込んで、些細な事で自信をつける。



毎日が、目まぐるしく過ぎていく。




その間も、彼の手は、何度も安らぎをくれた。





落ち込んだときは励まし、評価されたときは一緒に喜び、労われ………



彼の優しい手はいつもあたしの頭を優しく撫でる。



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