彼の手
ダラーンとしてたあたしの腕が 彼の上着をギュっと掴む。


その胸に顔を押し付けワーワー声を出して泣いた。



幼子をあやすように髪を優しく撫でられる感触が心地よくて、あたしの涙腺は壊れてしまったんじゃないかってくらい涙が溢れ出る。






途中、今日の化粧がいつもより濃いことを思い出して、『あぁ、服汚しちゃうな』なんて心配もしたけど、結局この胸の居心地の良さに負けた。



どのくらいそうして泣いていただろう。



その間、頭を撫でる手は止まらなかった。







「ごめんね。シャツ台無し」





ヨレヨレでぐしゃぐしゃになった見るも無惨なワイシャツ。

それを目の前にして、自分の曝した醜態を見せつけられた気がしていたたまれない。




そんなあたしの気持ちを察知したかのようにクスクス笑う彼の声。



「別にいいよ。お前の結婚式に高いシャツなんて着てかねぇよ」




「………だけど」




戸惑うあたしに「いいの」と笑ってクシャクシャと頭を撫でる。



「や。髪ボサボサになるでしょ」


その手から逃げようとしたあたしを執拗に追いかける彼の手




今は、その手がこの世にあってよかったって思う。



逃げるふりしてその手に触れられ ることが嬉しかった。
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