彼の手
そして今晩。


彼とのプロジェクトがクライアントへの引き渡しを無事終えて、一段落した。



残り作業はまだいくつか残っているから、戻って軽く二人だけで打ち上げしようなんて、コンビニでビールとつまみを少しだけ買った。




社に戻った頃には数人いた同僚たちも、あたし達が一段落つく頃には誰も残っていなかった。

そして、二人だけのささやかな打ち上げを始めたんだ。





とっくに夕飯の時間は過ぎていて、空腹だったのに加えて、彼がどこからか調達してきたイタリアンのオードブルがやけに美味しくて、お酒がドンドンすすんだ。




久しぶりの達成感で気持ちが高揚してたのかもしれない。





足元がふらつくほど飲んだあたしが、立ち上がろうとして椅子の脚につまずいたのを、抱えるように助けてくれた彼の顔が一気に真顔になった。




ヤバイ。





直感でそう思った。




今、彼の言葉を聞いてはいけない。

聞いてしまったら、あの心地よい手を失ってしまう。




そんなあたしの気持ちを知らない彼は、いつものやさしい声であたしの名前を呼んだ。





それなりに恋愛経験を積んできたから分かる。


この、空気は……ヤバイ。



彼との関係を、曖昧にしてたあたしの目論見が崩れる



「改まっちゃって何よぉ?」とおちゃらけて流せるほどの余白がない彼の視線
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