彼の手
逃げなくちゃ
頭にそれしかなかった。
捕まれた手を振りほどき、「それ以上聞きたくない!」と叫んで、あたしは事務所を飛び出した。
目の前のエレベーターは遥か下の階をで止まっている。
迷わず階段を登り始めた。
そして今に至る。
逃げるあたしと、追いかける彼。
目の前はもう行き止まり。
今日のために履き下ろしたちょっと高めのピンヒールがあたしの脚にダメージを与えてくる。
今はそれさえも恨めしい。
「来ないでって言ってるでしょ」
なりふり構わずピンヒールを脱ぎ彼に向かって投げ下ろした。
カツンと手すりにだけあたって落ちるそれを見ながら
もうダメだと絶望的になった。
ついに行き止まりの屋上へのドアへと、たどり着いてしまったあたし。
それを確認した彼は、足を止め、そしてゆっくりと昇り始めた。
ジリジリと追いつめられる。
ペタンと冷たい鉄のドアの感触が背中にした瞬間ヘナヘナと膝から崩れ落ちた。