彼の手
瞬間、ポロポロと涙が出た。





人間は案外単純なんだ。
空腹が満たされると、今度は感情が現れる。




必死で守っていた何かが崩れたあたしは、涙を流しながらベーグルサンドにかぶりつくというみっともない姿を晒している




なのに、そんなあたしを見ても慌てることもなく優しく微笑んであたしを見つめてる。



「美味しい?」




彼がかけた最初の言葉はそれだった。



『 大丈夫?』でも『頑張れよ』でもなく、いたって普通の言葉だったけど、彼のその声が優しくてあたしは、子供のようにワァーっと声を出して鳴き始めてしまった。



そんなあたしを見て、ハハハと笑った彼は、部屋を見渡し「ティッシュどこしまったんだよ」とキョロキョロと 捜索し始めた。




彼の視線が部屋を一周し終えると、突然あたしの隣に座り、グイっとあたしの頭を自分に引き寄せた。




ゴツンとぶつかった額が痛むけど、そんなこと気にならないくらいあたしの心は動揺する。





「仕方ねぇな。ここで拭けよ」



「………」




あたしの後頭部をグッと自分の胸に押し付ける彼の大きな手。



もしこれが、失恋だったり、仕事の失敗で泣いてるのなら、迷わず「なに言ってんのよ」とこの胸を突き飛ばすのに、今日のあたしは………変だ。
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