クローバーの起こしたキセキ





「もちろん知ってます。
大丈夫です、人・・・・・他人には向けないので」





こう言って何か言われる前に保健室から出た。
人に向けて切れたら血が出る。
切どころが悪ければ出血多量で死ぬ。
ただそれだけの話。




人間は強く見えてもとても儚い存在なんだ。
現に、こんな2センチもないという程小さいカミソリで死ねてしまうんだもん。
銃弾だってあんな小さな金色の弾が当たると、たった一発であの世行き。




あぁ、人間はなんて脆い生き物なんだろう。





屋上への階段を一歩一歩踏みしめながら登って行く。
残り一段。





今まで楽しかった。
ありがとう。




学校に別れを告げる。
それから、端っこのフェンスまで一気に走る。
カミソリの刃・・・・・。




太陽の光を反射してとっても綺麗に光っている。
カミソリの刃って、人を傷つけるだけの道具じゃないんだ。
人間だって一緒だよね、きっと。
少し角度を変えれば、その人のいいところが見えてくる。





・・・・・生まれ変わったら、人を思いやれる人間になれますように。





そう願いながら、手首に押し当てた。
切ろうとした瞬間・・・・・。





「何してんだよ、お前」




聞きなれない、でも、あどこか温かさがある声。
顔を見なくてもわかる。





「海原君・・・・・」






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