ラブスペル
「さっき、玄関で襲っちゃうところだった」

陽希はコートをハンガーに掛けながら、また溜息を吐いた。

「襲われた感じ、充分したけど」

「美知佳さんは冷たい廊下なんて嫌でしょ」

このだだっ広いベッドに腰掛けようか、それともリビングに行こうかを考える前に、陽希は腕を強く引っ張って、私をベッドに押し倒した。

私を見下ろす陽希の顔には長い髪が掛かり、表情が良く見えない。

陽希は私の手を摑まえると、ゆっくり唇でなぞった。

それも、1本ずつ丁寧に。

私の心臓は既にバクバクいっているのに、陽希は辞める気配がない。

「……ハ…ル?」

私が掠れた声で彼を呼ぶと、陽希は空いている方の手で自分の髪を搔き上げる。

「ダメ。お仕置き中」

「……お仕置きって」

「必要でしょ?今日の美知佳さんには」

陽希は笑みらしきものを私に向けた。

「それって……もしかして酔っぱらい緒方の所為?」

「その口は黙っててくれる?」

強い言葉と裏腹に、陽希の唇が優しく私の口を塞ぐ。

そして彼は両方の手を繋ぎ合わせると、頭の上まで持ち上げた。

ようやく間近で見た陽希の瞳には苛立ちが映っていて、私の胸の鼓動が更に跳ね上がる。

「ハル……もしかして、本当に妬いてたの?」

電話口ではあんなこと言ってたけれど、緒方のツッコミにも余裕綽々の笑みを浮かべていたから、冗談半分だと思っていた。

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