私は男を見る目がないらしい。
 

繁華街や駅が近くなってきたからか、徐々に人が増えてきた。

週末ともあってか、みんな笑顔で陽気で楽しそうに街を行き交う。

前や横から来る人の波を避けながら歩いていた時。


「……みお……!」

「!!」


少し離れた場所から雑踏をくぐり抜けるように聞こえてきたのは、自分の名前。

……そして、私はその声を知っていた。

小さくても、雑踏に紛れていても、その声を間違えるはずはない。

たった今聞こえてきた声に脳内が占領されて、周りの雑踏が聞こえなくなる。

私は無意識にきょろきょろと辺りを見回して、その声の持ち主を必死に探していた。


「……っ!」


横断歩道の向こう側に見えた姿に私は動きを止めた。

1ヶ月ぶりに見るその姿は、私が一度も見たことのない格好だった。

……スーツを着ている朔太郎。

髪の毛もしっかりと整えていて、私の知らない朔太郎がそこにはいた。


「……さ、くたろ、……」


無意識に名前が口に出て一歩踏み出した時、朔太郎がふと斜め横に視線を落とし、笑顔を浮かべたのが見えた。

その笑顔を独占するのは……

 
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