私は男を見る目がないらしい。
……もっと大きな壁がこのドアの向こうにある。
どんな顔すればいいのかとか、どんな態度をとればいいのかとか、全くわからない。
……でも……逃げちゃダメなんだ。
ちゃんと朔太郎のことを吹っ切らなきゃいけないんだから。
きっと、これは神様から与えられた試練だ。
すーはーと深呼吸をして、ぎゅっとドアノブを握る。
よし!、と気合いを入れてドアを開けようとした瞬間、三浦さんののほほんとした気の抜けてしまうような声が聞こえてきた。
「あれ?」
「え?」
どうしたんだろうかと、つい振り向いてしまう。
せっかく気合いを入れたのに、完全に崩されてしまった。
三浦さんは化学分析をする時に必須の補助器具の安全ピペッターを手に持って、ゴムの部分をむにむにと押しながらマジマジと眺める。
「ピペッター、こんなところにあったんだ……。朝使ってたのに、この部屋から忽然と姿を消してさ~。昼から探してたんだよねぇ」