きみの、手
「というわけで、クッキーを作ってきました!」
「……」
翌日、昨日と同じ晴れ空の下の屋上という景色の中で、クッキーの入った袋を手渡す私にその顔は嫌そうに歪む。
「…は?」
「いや、だからまずはお近付きのしるしにと思いまして!私の気持ちです!受け取ってくださ…」
「いらない」
「ってえぇ!?何で!?」
もちろん物でつられるとは思ってなかった。けれどまたしても迷いなく断られてしまう。
「他人が作った物なんて食べたくない。それにどんなに言い寄られようとお前と付き合う気にはならない」
「どうしてですか!?」
「昨日も言っただろ。女自体に興味がないんだよ」
やはり手をポケットに入れたまま出すことのない彼に、仕方なく一度差し出したクッキーを引っ込める。
「っていうのは…つまり?」
「軽い潔癖症みたいなものだな。他人には触れないし触ろうとも思わない。食い物も手作り感のある物は食えない」
「潔癖症…」
「と言っても身内は例外だから、気の持ちようなんだとは思うけどな」
ボソッとそう言う彼はするどい目を遠くへと向ける。