ツンデレ社長と小心者のあたしと……3
取りに来て……が意味する事。
それはきっと社長宅のことだろう。
会社のスケジュール管理アプリで社長の動向を調べると、今日は午後から出かけた後は帰社しない予定になっている。
やはり家まで来い、という訳だ。
一度来た事あるから場所は分かるよね?
という無言のプレッシャー。
道のりなんて……悔しいくらい今でも鮮明に残ってる。
駅を抜けて、社長の腕を抱いたまま訪れたあの部屋のこと。
忘れるなと、言う方が無理な話。
どうせ大量の読書で眠れない事は覚悟していたし、23時でも異論は無い。
お肌はボロボロになっているだろうから、それを見られるのが嫌だという乙女心はあるけれど、そこは仕事。
そうじゃなくても、実際疲れ果てた姿は何度も見せているから、今更でもある。
……と言いつつ、準備した化粧ポーチはいつもとりも膨らんでいた。
分かりました、と打った返事の返事は無い。
用件が伝われば、それでOKなのだ。
あたしも、作業の続きに没頭する。
昔の社長、今の社長。文体や言い回しは年齢によって変わっているけれど、芯は同じ。
決してぶれずに信念を貫く活字の中の社長を、を改めて尊敬する。
奔放で飾らない。
だから、素の部分がいくらでも出てくる。
会ったことのない人でも、こういう人なんだろうと想像がついてしまう。
それが怖くない、というのが凄い。
人は飾りたがったり、見栄を張りたくなったりするものだけど、社長にはそれが一切無い。
それが人を惹きつけてやまない理由なんだと、あたしはそう思う。