ツンデレ社長と小心者のあたしと……3
一度自宅を離れ、社長の自宅のある駅そばにある24時間営業のコーヒーショップで読書に耽っていたあたし。
時計を見ると、いつの間にか23時間際なことに気付く。
「そろそろ行かなくちゃ」
睡眠大好きな社長の事。
23時以降に指定しているとはいえ、遅くなることは好まないだろう。
本を預かったら急いで帰ろう……。
そう思いながら一人で入るには眩過ぎるエントランスで、部屋番号を呼び出した。
都会育ちでも無いあたしは、このオートロックだけで緊張してしまう。
「お疲れ」
短い返事と共に、自動ドアが遠隔操作で開かれた。
出来るだけ待たせないようにと、上品ギリギリの早足でピカピカの廊下を駆け抜けると、
-ピンポーン-
呼び出し音を鳴らして数秒、扉が開く。
「入って」
「お邪魔……します」
玄関で本を受け取ったら、すぐに帰ろう。
そう思っていたあたしの頭の中のスケジュールを、社長はいきなり崩してくれる。
そして、
「たぶんその中に入ってるから」
と、一つの段ボールを顎で指した。
「ありがとうございます」
鞄を床に置き、箱の中を漁るとどうやら出版する前のサンプル本が、いくつも入っているようだった。
「ちょっと見にくいかもしれないけど」
一番奥に目当ての《空に会社》はあった。
出してしまった他の本たちを綺麗に箱に戻すと、あたしは立ち上がる。
まだ帰ったばかりなのか、スーツのままの社長の邪魔をしない為だ。
「それじゃあ、これお借りしていきます」
ぺこりと頭を下げようとしたあたしを止めたのは、
「は?」
と、困ったのでも怒ったのでもない、何とも言い難い顔をした社長の声。