ツンデレ社長と小心者のあたしと……3
「すみません……まだ」
薄い素材で出来たナイトウェアと洗いざらしの髪に残る湯気と……。
普段と違う社長の姿にくらくらしながら、なんとか自分を保つことに必死なあたし。
それに気付いていないのか、社長は、
「そ」
とだけ言うと、無遠慮に隣へ腰かけた。
「……あの」
「何?」
「隣にいると、緊張して読めないんですけど」
「じゃあ俺が、今読まなかったらこの本捨てる、って言ったら?」
意地悪そうにあたしを見つめる社長に勝てるはずもなく……。
「……頑張ります」
隣を出来るだけ気にしないように、文字を拾っていく。
サンプル版本の中身には、社長が修正で入れた赤字がたくさん残っていた。
”読みにくい”と言っていたのはこのせいだったらしい。
最初の状態でも成り立ってはいるけれど、更に読みやすい仕上がりに変更がされていた。
投げっぱなしではなく、これが自分の言葉に責任を持つという事なんだと背中で教えてくれているようだ。
思わず隣の社長を見ると、携帯を触っている手を止め、じっとあたしを見つめる。
その視線から逃げるように、また本の中に視線を戻した。
拷問かと思うくらいに……胸が痛くて、どうしようもない。
この場にいるのも苦しいけれど、この本が終わったら、ここにいられなくなる。
本のラストが二人の時間の終わり。
そう思うと、切なさが募っていく。
そして迎えた……最後のページ。