謝罪のプライド
10.キレる男
 瞼が重すぎる。
鏡にうつる自分がブサイク過ぎて笑えるほどだ。
今日はお休みで良かった、とふてくされて再びベッドに戻る。

結局、浩生は来なかった。

どうして。
あの後、どこに行ったの。
美乃里はどこまで一緒だったの。

胸のブラックホールが巨大化している。嫌な感情を吸い込んで、まだまだ色んな感情を飲み込もうと大きく口を開けているようだ。

 夜よく眠れなかったせいか、そこから寝てしまったらしい。
次に目が開いたのは、玄関でガチャガチャと鍵穴が回る音でだ。


「浩生?」

「なんだ、初音。まだ寝てたのか」


入ってくるなり部屋の暗さに眉を潜めた彼は、ベッドで布団をかぶっている私を見て驚いたようだ。


「珍しいな。具合悪いのか?」

「……今までどこに居たの?」


浩生の服装は、昨日のスーツのままだ。

胸のブラックホールは嫌なものを吸い込みすぎたのかも知れない。ぐるぐる、回りながら吸い込まれていったはずの黒い感情が、吐き気とともに飛び出してきた。


「どうして昨日の格好のままなの?」


彼の顔がこわばったのがわかった。だけど言葉は止まらなかった。
不安が変に私を後押しする。
いつもなら、嫌われたら怖いと思って言えない言葉が、次から次へと溢れ出してきた。

< 114 / 218 >

この作品をシェア

pagetop