謝罪のプライド


「坂巻さんと何してたのよ!」


浩生の眉間にくっきりとシワが刻まれる。
彼は不機嫌さを隠しもせずに私に近寄ると、布団を奪い取った。


「何言ってんだ、お前は」

「だって。昨日、電話したら坂巻さんが」

「昨日は飲み会だ。二人でじゃない、他のCEもたくさんいた。坂巻の送別会なのにアイツがいなきゃおかしいだろう」

「じゃあどうしてこんなに帰りが遅いの。朝……ううん、もう昼じゃない」

「それは……色々あったからだが、お前が心配するようなことは何もない」


浩生がたった一瞬でも言い淀むのは珍しい。

色々って何。
聞いたら答えてくれるの?


「じゃあ彼女とはなにもないのね? あんな可愛い子にしなだれかかられたらって思ったら、心配になるの当たり前でしょ?」

「いつまでも妬いてるんじゃねぇよ、みっともない」


みっともないって何。
彼氏が連絡もなく夜明かししたら、気になるの当たり前じゃないの。
好きだから不安になるのに、浩生にとってはそれも馬鹿なことなの?


「浩生の馬鹿!」


目を潤ませながら言った言葉に、彼は心底嫌そうな顔をして立ち上がった。


「……浩生?」

「俺帰るわ」

「ちょ、待ってよ」

「俺は謝らなきゃならないようなことはしてない。じゃあな」


手を伸ばしたけれど、届かないまま扉は冷たい音を響かせて閉まった。


「……浩生」


私は彼を傷つけるようなことを言ったのだろうか。
自分の不満をぶつけることがそんなにダメなこと?

溢れてきた涙が止まらなくて、私はその日一日ベッドの中からでられなかった。



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