謝罪のプライド

彼はちらりと時計を見ると、私に動かないように釘を指し、一度中に入っていった。
そして五分後、手にグラスを持って戻ってくる。


「はい、お茶」

「え?」

「水分補給しないと。泣いてたんでしょ?」

「あ、……うん」


まあ、顔でバレバレだわね。
恥ずかしい、私いい大人なのに。


「何かあった?」

「うん。でも、ごめんね。数家くん仕事中でしょ? いいよ、戻って」

「気になって仕事にならないよ。頼んできたから少しだけなら大丈夫」

「でも」


仕事中の人に申し訳ない。
それに、数家くんに泣きつくなんて、やっぱりズルいような気がする。


「ちょっと彼氏と喧嘩しちゃって。ひどい顔で電車も乗れなさそうだったから、ちょっと場所借りて休んでいただけなの」


出来る限り明るい声で言ったつもりだったけど、数家くんは神妙に私を見返した。


「泣かせるような男と付き合わなきゃいいのに」

「違うの。私が彼を信用できなくて、それで怒らせちゃって」

「でもそれってさ、信用させるだけの安心感を与えられないってことでしょ。男の度量がないだけじゃないの?」

「そんなことないよ。浩生が悪い訳じゃない」


思わず浩生を擁護してしまう。
どうして人に否定されるとムキになっちゃうんだろう。

自分でもずっと不満ばかりだったのに。

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